【2025年版】なぜハイパースケーラーはマレーシア・ジョホールバルに集結するのか

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近年、マレーシアのデータセンター市場が世界的に注目を集めています。とりわけ Johor Bahru(ジョホールバル) は“東南アジアの新しいデータセンターハブ”と呼ばれるほど急速に成長し、Google、Microsoft、AWS などのハイパースケーラーが集中的に投資を進めています。

本記事では、
① マレーシアにおけるデータセンター市場の急成長
② ハイパースケーラーが動き出した理由
③ なぜジョホールバルなのか?
という流れで分かりやすくまとめます。

■ 1. マレーシアのデータセンター市場は「東南アジアで最速級」に成長中

マレーシアのデータセンター市場は 2024 年時点で 約 4,000 億円規模 と言われ、2030 年には 3 倍超(約 1.5 兆円) に達するという予測も出ています。

背景には以下のトレンドがあります。

  • AI モデル訓練・推論需要の急拡大
  • クラウド移行の加速
  • スマートシティや 5G の普及
  • DX を推進する政府の強力な支援(MyDIGITAL など)

こうした大きな波に乗って、世界の主要クラウドプレーヤー(ハイパースケーラー)が一斉に参入しているのが現在のマレーシアです。


■ 2. ハイパースケーラーの動向:2023〜2025 で一気に加速

近年の主な動きは以下の通り。

● Google

2024 年にマレーシア初のデータセンター建設を発表。特に Johor(ジョホール州)で大規模キャンパスを計画中。

● Microsoft

総額 RM 10 billion(約 3,400 億円) の投資計画を発表し、ジョホールとクアラルンプール周辺でクラウドリージョンの整備を進行中。

● Amazon (AWS)

マレーシア政府と連携し「再エネ調達」や「AI教育プログラム」を発表。DC投資は非公開ですが、Johor での土地取得が複数報じられています。

● Tencent / Alibaba(中国系)

東南アジアの需要獲得のため、ジョホールの DC 用地取得やコロケーション投資を継続。AI 含むハイコンピューティング需要を背景に拡大中。

ここ数年でハイパースケーラーの動きが一気に加速し、東南アジア市場の次の中心がシンガポールからマレーシアへ移りつつあります。


■ 3. なぜジョホールバルなのか?

ハイパースケーラーの多くは、クアラルンプールではなく Johor Bahru(ジョホールバル) に巨大なデータセンターキャンパスを建設しています。
その理由は大きく 5つ あります。


① シンガポールから目と鼻の先(距離 1〜5km 程度)

実はジョホールは シンガポールの“北側”に隣接しています。

  • データセンター向けの海底ケーブルがすでに★密集
  • シンガポールとのレイテンシ差が極小(1〜2ms)
  • 物理距離は日本の「品川 ↔ 川崎」レベル

つまり “ほぼシンガポール” と同一機能を実現できる のが最大の強みです。

シンガポールは電力・土地・環境規制が極めて厳しく、ハイパースケーラーが新規 DC を建てられないため、
“最も近い別解” が Johor という構造になっています。


② 電力供給が豊富で、しかも価格が安い

AI データセンターは 1 キャンパスで 100〜1000MW を消費します。

マレーシアは電力供給能力が高く、特に Johor 州には

  • 大規模発電所
  • 産業団地向けの特別電源ライン
  • 再エネ(太陽光)プロジェクト

がそろっており、AI サーバーが求める大電力供給が可能。

さらに電力単価も
シンガポールの約 40〜60% 程度 とされ、ハイパースケーラーにとって非常に魅力的です。


③ 土地が広大で、拡張性が高い(シンガポールは完全に飽和)

データセンターには広大な敷地が必要ですが、シンガポールは土地が枯渇。
一方 Johor は

  • 大規模キャンパスを丸ごと確保可能
  • 100MW → 300MW → 1GW という段階的増設も容易
  • 長期の電力+土地確保ができる

ハイパースケーラーが必要とする“長期計画のしやすさ”で圧倒的優位にあります。


④ マレーシア政府の政策支援が手厚い

政府の「MyDIGITAL」政策により、データセンター誘致を国家戦略として推進。

  • 税制優遇
  • デジタルインフラ事業者向け支援
  • AI と再エネ投資を組み合わせた特別枠

などがあり、外資企業が参入しやすい環境が整備されています。


⑤ 海底ケーブルが集まり、ASEAN 全域への接続性が抜群

ジョホールとシンガポールを結ぶルートには、アジアでも有数の海底ケーブルが豊富に敷設されています。

  • 日本〜シンガポール間の主要ルート
  • アジア〜ヨーロッパを結ぶルート
  • インドネシア・タイ・ベトナム・インド向けの多接続ポイント

そのため、ジョホールは “ASEAN全域+世界のトラフィックを扱える結節点” として機能します。


■ 4. ハイパースケーラーの視点で見る「Johor の優位性」まとめ

観点Johor の強み
レイテンシシンガポールとほぼ同等(1〜2ms)
電力安価かつ大量に確保可能(AI 向け高密度ラックに対応)
土地大規模キャンパスを低コストで確保可能
拡張性100MW 級を段階的に 1GW クラスへ増設できる
政策DC 誘致を国策化、外資に有利
接続性海底ケーブル密集・ASEAN全域のハブ

結果として、
ハイパースケーラーにとって「最もバランスが良く、最短で拡張できる場所」が Johor
という構図が生まれています。


■ 5. 今後の注目ポイント

ジョホールの DC 集積はこれからも進みますが、同時に以下の課題も浮上しています。

  • 急激な需要増による「電力・水資源」の逼迫
  • 環境負荷への規制強化
  • 競争激化による土地・電力コスト上昇
  • 再エネ確保の必要性(特に AI 用 DC では必須)

ハイパースケーラーはすでに「太陽光 × DC」「液冷データセンター」など次世代型の取り組みを同時に進めています。


■ まとめ:ジョホールバルは“ポスト・シンガポール”のDCハブへ

ハイパースケーラーの巨大投資が集中し、マレーシアの中でも特に Johor Bahru は世界的なデータセンター拠点へ進化しています。

  • シンガポールの規制
  • AI時代の爆発的な電力需要
  • 世界級の海底ケーブル接続
  • コスト競争力
  • 政府の支援

これらが組み合わさり、「AI 時代のインフラ基地」として最適な条件がそろった稀有な地域になっています。

東南アジアのデジタルインフラは、今まさに シンガポール → Johor へと重心が移りつつあり、この流れは今後 10 年間さらに加速していくと言えるでしょう。